映画コラム的感想『この世界の片隅に』ほのぼのとしたゆるーいタッチに潜む強烈な戦争へのアンチテーゼ

2020-08-10

映画『この世界の片隅に』は2016年劇場公開された片渕須直監督による広島・呉で幼少期から嫁に嫁いだ先で第二次世界大戦の時を過ごす、”すず”と言う一人の女性の視点で描かれたアニメーション映画!広島で海苔すきを生業とする家でそたった”すず”は、18歳の時に縁談で呉の周作という青年の家へ嫁いだ。慣れない呉での生活の中で、戦時中の人々との振れ合い家族の在り方を”すず”の視点で描く

『この世界の片隅に』イメージ画像
『この世界の片隅に』公式予告 youtubeより

映画ショートコラム ネタバレ含む

片渕須直監督が私財を投げうって、そしてクラウドファンディングで資金を4000万円弱程も集めて制作されて話題になりました。

原作は、こうの史代の文庫本2巻からなる漫画ではあるものの、原作の中に作りこまれる思いや情景をアニメーション独特の表現で、映像と声優の演技で秀逸に構成されなおしています。

片渕須直監督が本作を手掛け始めたのは実に、2010年とのことですから6年の歳月を使って練り上げられた、細部・機微にこだわりまくりリアリティーを追求したアニメ映画に仕立て上がっています。片渕須直監督はジブリ時代に、『魔女の宅急便』等を宮崎駿作品の一員として一緒に手掛けていますから、空想・ファンタジーの宮崎アニメに真っ向真逆に向いて、リアリティーを追求した先の情景描写とその時その場所で生活する普通の人々に目を向けて地に足のついた作品と言えるでしょう。

毎年この時期になると、見たくなる『この世界の片隅に』ですが、片渕須直監督は2019年12月にさらに色々なカットや人物談を盛り込んだリメイクと言うか再構成の『この世界の さらにいくつもの 片隅に』を劇場公開しています。こちらも含めて、異例の劇場でのロングラン大ヒット上映となっています

監督のかなり思い入れが強い作品なのは本当に見て取れます。

映画の構成としては主人公”すず”の視線を通じて見える、その時代の情景が生々しく描かれながらも、写実的描写と絵の得意な”すず”の視点で見える印象描写で対比されながら展開されます。このアニメの中の絵的な印象描写が実に美しく表現されます。

他にも、同種のアンチテーゼとしていくつか展開されて銛かまれる演出構成になっていて、広島と呉や戦争と生活、現実とすずの空想が実に巧妙に見ている側のイメージで対比の対象として想起する作りになっていて、観ている人を惹きこみます。

時代背景や広島や呉の町並みを徹底的にリアリティのある細部にわたって描かれているため、映像から受ける印象としては”頭の中に描く記憶”的に呼び覚ます映像のように映ります。

全体的に、およそ戦時中とは思えない、”ほのぼの、のほほん”としたゆったりとした空気感の中で展開されていきます。

ただ、間違いなく戦争に対する一つのテーマ性のある映画であることは間違いないのですが、広島を描いた割には直接的な”原爆”を表現していないところにみそがあります。この辺が、アンチの人にとっては生ぬるいのでしょう。

原爆ではありませんが『ガラスのうさぎ』のような戦争の悲惨さを訴える作品、同様に広島の原爆を扱った作品としては『はだしのゲン』が直接的な、悲惨さを訴えているのに対して、確かに本作ではまるで他人事を扱っているかのような遠くの出来事のように扱います。

本作では、両親を亡くし自分の妹も放射能の二次被爆による紫斑で苦しむ姿程度の接し方しかしていません。ここには原作も含めて強烈なアンチテーゼとしての反戦へのレトリックなのだろうと思います。あくまでも”すず”の視点を通じてみる、空襲や広島原爆投下そして終戦を見つめることによって、より生々しい生活の場から見る戦争全体への反戦感情が掻き立てられる構造になっていると思います。

それが、「こんなものじゃなかった」、「広島以外の人はこうだったんだね」、「ほのぼのしすぎ」などどれもが結局は戦争に対する思いを想起するのには外ならず、結局は惹きこまれているということで、まんまと作品の術にハマっています。

それでいいのだと思います。

本作は、軍事物として戦争を美化することもなく、『男たちの大和』『永遠の0』のような軍艦・戦艦アクションや男を前面に押し出しものでもありません。今までの戦争映画とは一つ画一的に線が引かれているように思います。

『日本のいちばん長い日』のような軍との政権のせめぎあいのような緊迫感もありません、間違いなく同じ時代を描いた映画であるにもかかわらず、日常からの戦争(呉、広島)を見つめた作品です。

アニメでの戦争がテーマの作品ですと『火垂るの墓』が取りざたされますが、出てくる兄妹の苦労とか生き様と対比されます。

清太と節子の兄妹のように蛍のような儚く幼い命の灯が消えていく様ではなく、どんな世界でも人は生きていくし、未来は続く。

その中で、こんな世界の片隅で、人が人と出会えて、自分を見つけてくれる人がいて、自分も誰かを見つけて生きていく力強さと、大きな大きな戦争の中でも息づく生命の強さを描いています。

散っていく命も、生活の中での一人の女性”すず”の戦時中に感じたこと、視線を通じて伝わってくる生活感が、相反する戦争に対しての強い反戦の思いと行き場のない憤りを結果的に表現しているところが本当にすごい!

戦争に対しての思いを、徹底的にフィルターの先にある被写体のようにとらえて表現することで、逆にリアリティのある一般市民の思いや生活感とフィルターの向こうにあるリアルな戦争の悲惨さを見ている側に強烈に突きつける描写が強烈に感情に訴えかけます。

何度見ても、時代背景や緻密な絵の作りこみ、知らない歴史を連想する仕掛けが新しい発見が少しずつある。そんなアニメ映画です

全てが、”のほほん”といらだたせる構造

あと一歩の「そうじゃやないだろう」の気持ちを書きたる演出

そして、その先あるリアルな世界観

それらを見ている側でくみ上げる仕掛けが素晴らしい、そんな映画で誰にでも一度は見て欲しい作品です

― hogeru -