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『小さいおうち』静かな日常にある女の激情を回顧録で読み解く:動画配信・映画感想あらすじ考察

2020-02-16

『小さいおうち』は山田洋次監督の初となる恋愛映画を、山田監督らしい映像化で日常を積み重ねて表現、黒木華がベルリン国際映画祭での銀熊賞(女優賞)を獲得し、松たか子との共演など話題のおすすめ映画!タキの晩年に書いた自叙伝を通じて、昭和初期から田舎出のタキが女中として働いた家での出来事、女主人の時子や出会う人々のことへの想いを静かに綴られている。

全体的に静か雰囲気の中で、淡々と映画の進行が進みます

山田洋次監督らしからぬ展開ですが、主人公の女性の回顧録としてつづられ

懐古と郷愁の悲哀がまじりあう展開に、さらに現在の時間の上に重畳された感情の複雑さを事実と過去の推測も交えた第3者の視点から複雑に表現されていくレトリックは心にしみわたっていきます

見終わった後には、特に何かスッキリするものはありませんが

主人公のタキさんって、こう思っていたんだねー

という視点で温かく胸が熱くなることが出来ます

本映画は、静かな静かな

おすすめです

それでは見ていきましょう!

あらすじ ネタバレあり

健史は大叔母のタキの葬儀を終えて、遺品の整理の中で健史のすすめでタキに書いててもらったタキの自叙伝を見つけて、自叙伝を読みタキとの想いにふける。

昭和初期、山形の田舎からタキが東京へ働きに出たこと、ある作家の宅に数年女中として働きその後、作家の親戚の家に女中として住み込みで働いていた事が綴られている。
当時のタキには山形から東京に出て来る不安よりも、きらびやかな東京のハイカラな町への憧れの気持ちが大きく、女中としてのお努めなど何も気にならなかった。
作家から紹介を受けた、平井家は主人が玩具会社の重役で、小さな赤いレンガのおうちへの奉公がはタキにとって特別な物だった。
平井家には、主人と若く美しい夫人の時子、息子の恭一の3人暮らしだった。平井家の人々は皆優しく、主人も夫人も聡明で穏やかな日々が流れた。息子の恭一が小児麻痺から足の動きが悪った時にはタキが家族の一員として必死に見日マッサージ繰り返して件名の看病を行ったものだった。
あるとき、平井の会社に若く知的なデザイナーの板倉が勤め平井家にも顔を出すことが多くなっていった。タキは密かに想いを寄せるも、同じく夫人も板倉に思いを寄せてただならぬ関係となっていった。
そんな板倉も太平洋戦争が過激化すると、戦地への召集令状を受けるのだった。
時子は近所からの噂が大きくなる中、最後に板倉に会いに行こうとするがタキに止められ、タキは逢瀬を取り持つので手紙をしたためるように時子に懇願しその手紙を板倉へ届けるも、板倉は時子に会いにはとうとう現れなかった。
戦況が悪化する中、タキは田舎へ一度帰郷し東京大空襲で平井家もまた燃えて無くなってしまった

タキの自叙伝はここで終わっている。
健史はひょんな事から、板倉が画家になっていることを知り、そこから平井家の息子の恭一存命していることを知り合いに行く。
タキの遺品の中から見つかった、時子の名の差出人が書いてある手紙が出てきたため手渡したのだ。
既に恭一は視力がなく、健史が読み上げるも、その手紙は時子から板倉への逢瀬の手紙であった。タキは板倉へ渡せずにいたのだ。

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映画情報&キャスト

『小さいおうち』 2014年 日本
【英語タイトル】The Little House
【監督】山田洋次
【脚本】平松恵美子
    山田洋次
【原作】中島京子
【製作総指揮】
    迫本淳一
【音楽】久石譲
【撮影】近森眞史
【編集】石井巌
【出演者】
布宮タキ(おばあちゃん:倍賞千恵子、 青年期:黒木華)
 :タキは生涯独身を貫き
  激動の昭和を生きた女性
  昔仕えた、”時子”との小さな赤いおうちでの
  思い出を自叙伝として綴っている。
平井時子(松たか子)
 :タキが仕える
  おうちの若く美しい女主人
  男の子一人を儲けるが、板倉と不倫関係になる
平井雅樹(片岡孝太郎)
 :時子の旦那で玩具会社の社長
板倉正治(吉岡秀隆)
 :平井の会社で働くデザイナーさん
  時子と不倫関係になる
荒井健史(妻夫木聡)
 :タキの遠い甥で、
  タキを気遣いよく遊びに来ている
  タキの若い時の自叙伝を書くように進め
  タキの気持ちや記録を整理する手伝いをする

超感想中心の評価考察・レビュー

山田洋次監督の恋愛映画

『小さいおうち』イメージ画像 松たか子、黒木華
松竹チャンネル/SHOCHIKUch   https://www.youtube.com/ より

ちょっと想像できないかもしれないんですが、『小さいおうち』は山田洋次監督の恋愛映画のカテゴライズになっています。

山田洋次監督へのインタビューからも、自身で初の恋愛映画となるそうです。

『男はつらいよ 寅さんシリーズ』『釣りバカ日誌シリーズ』『たそがれ清兵衛』など日常の中で人々の生活を積み上げ、特別な事でなく生活や普段の行動にスポットを当てて照らし出していくのが非常に上手い監督で、それらの様相を独特の世界観でフィルム化していきます。

静かな流れの中に、ストーリーに脈々と感情をきっりちと流れていることを主張して、映画の根幹を形成していくイメージがあります。この『小さいおうち』でも多分に漏れず、時代背景が2つあります。

タキの現代と若かりし頃(1940年前後で、大東亜戦争を挟んででの出来事)の2部で構成されています。

そのそれぞれの時代での想いが一本の線で繋がりながらも、タキの感情の変化を中心に表現されています。

燃え上がるような恋愛映画ではないけど、心にしっくりと残る、そんな映画でした。

合わせて読みたい複雑な感情おりなすトム・フォード『ノクターナル・アニマルス』

ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)を受賞 黒木華

エンドクレジットでは、松たか子が上に来ているので主演は松たか子だと思いますが、ベルリン国際映画祭で女優賞を獲得したのは黒木華になります。

若い頃のタキを少なめのセリフの中で表情や仕草で想いを綴ったのが評価されたのだろうと思います。

たしかに黒木華は、役柄と演技の方向性とおっとりとした表情が非常に良くマッチしていました。

倍賞千恵子(タキの後年)と少しギャップもあるような気もしますが、自叙伝での回想として女の50年という時間と感情の重畳がタキを強くさせたのでしょう、そういう人間としての太さを感じました。

それにしても、黒木華は本当に幅の広い演技をします。

テレビドラマから、映画までどんな役でもこなすし、本作のようなおっとりしっとり系『日日是好日』ビブリア古書堂の事件手帖から、漫画原作の『凪のお暇』テレビで大ヒットしたロードムービーのようなものから、これからも活躍を期待ですね

松たか子の安定した演技力

松たか子も非常に素晴らしい演技で、いつものドタバタする感じは無く、落ち着いた演技の中で板倉さんへの想いを良く表現されていました。板倉さんにのめり込む時子は、時に静かにしとやかに夫の部下として、時には激しい女としての感情をぶつけていきます。

松たか子は本当に演技力アリ、どの映画を見ても安定して実力を発揮してくれます。

静かな気持ちを持ちながら・・・って演技がここまでうまいとは。

合わせて読みたい初恋の相手は姉の恋人だった松たか子『ラストレター』

恋愛映画なのか?タキの想い人は誰か ネタバレ考察

見終わったあと、誰の恋愛映画なのかイマイチ不明瞭であったと思いました。

確かに映画は面白かったし、タキの人生を自叙伝で語る中でタキの板倉への想いが少なからず感じることができました。

時子の板倉へ渡されなかった手紙が伝えられなかった想いとして、タキの遺物から出てきて最後に後年のタキが号泣して幕を閉じていくラストシーン

映画を見る限りは、板倉に一方的な秘めた想いを出会った時からにじみ出ていました

この描写からも明白なように、時子と板倉の間柄に板倉への思いを打ち明けられないのがタキであり、その積年の想いと手紙を時子へ渡せなかった申し訳なさが募りに積もって号泣しているように見えます。

あら、でもタキは本当に板倉に恋をしていたのでしょうか?

それにしてはスッキリしないのも事実

少し気になったので原作のほうを少し調べてみると、どうやらタキが独身を守り、

最後まで手紙を渡せずにいたのはタキから時子への憧れの気持ちからで、

タキが好きだったのは時子だったようです。

これは、残念ながら映画からは読み切れませんでした。

確かに映画劇中の中で、健史が「恋の三角関係があったのか?」と聞いたときに「そんな単純な物ではない」とタキは答えていました。さらに、若い時に見合い相手の男が気に入らずタキは自分の二畳半の部屋で号泣しています。

そこで時子のそばに一生いられればいいと言っていますが、

それは平井家にお仕えしていきたいと言う見え方しか出来ませんでした。

ただ、この見合いの後に号泣したときのタキと、ラストシーンで「長く生きすぎた」泣いているタキとは重なる物があり、言われてみればそうだったのかとも思う程度。

この辺はもっと、はっきり映画内でも表現して欲しかったですね。

合わせて読みたい回顧録で想いをつづるスティーブン・キング原作『スタンド・バイ・ミー』

え?これは『ハウルの動く城』

映画を見ていると、音楽がものすごく聞きなれた音楽で

何度も錯覚してしまいます。

これは、宮崎アニメの、『ハウルの動く城』

そう音楽担当が久石譲なんですね。しかも現代のタキが倍賞千恵子とくれば、ハウルと勘違いしてもおかしくない。

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タキのドキドキと、ハウルの動く城でのソフィーが若返ったときのドキドキしているのが、妙にかぶってかぶって仕方無しでした。

若返りをするって意味では、自叙伝と魔法の違いはありますが多少重なっていますし。

このキャスティングと音楽を山田洋次監督が考えてやっているのであれば、凄いことですけど、倍賞千恵子は山田洋次ファミリーなので、恐らく偶然でしょうね。

映画の感想まとめ

派手さはないし、日本映画の妙に気取った感じもない、淡々とした中での感情や想いを表現されている、良く出来た作品だと思います。

時子の半生ではなく、タキの目を通じた時子の半生が表現されており、黒木華の演技も光っていて良かったです。個人的に泣くまでは没入でき無き無かったですが、そのへんが山田洋次監督らしい作りであったかと思います。

個人的に黒木華の演技力は彼女の持つ素朴さと清廉さのイメージに合った時に演技って枠を超えて”そのもの”になり切るくらいの感じがします。ホラー映画ですが『来る!』とか、『ビブリア古書堂の事件手帖』などもまさにイメージにぴったりと合っていた映画でした。

映画全体的にも、時子へお思いも通じて、

過去に想いを残し、やりきれない想いを抱えたい方におすすめの作品です。

独善的評価[5段階]としては
 映像・音楽      4
 キャスト       4
 ストーリー構成    4
 初見で読み取れない謎 2

いつも通り、この映画の評価も毎度同じでが、 基本どんな映画でも大好きな”ほげる”としては、おすすめ作品と思います。