FODプレミアム

『横道世之介』ほのぼのマッタリ空気感漂う天然素顔に癒される!独特リズム映画:コラム的映画あらすじ評価感想・動画配信

2021-03-16

映画『横道世之介』は吉田修一の原作による青春小説!ロードムービーと言うのとはちょっと違う独特の空気感とリズム感をかもし出す映画。本屋大賞を三度まで受賞している内容は保証付き

[showTable]

映画ショートコラム あらすじ中心ネタバレ含む

横道世之介。。。名前からして、

よこみち、 よのすけ ってへんてこな名前がインパクトありすぎて、忘れられない!吉田修一原作の本映画は、原作の雰囲気のまままにスクリーンでも「世之介」が躍動していた

時代が大きく変わり始めていた1980年代後半、世界の冷戦は終わりに向かい始め、日本国内は「プラザ合意」を契機に始まった空前のバブル景気に沸いていた。

そんな時代が大きく動いていた時代の中で、横道世之介はたしかに生きていた。

今回紹介する「横道世之介」は、目まぐるしく変わる世界の中を飄々と、そして強く生き抜いたある男の物語である。物語は、長崎から大学入学の為に上京した19歳の青年である横道世之介が、出会う人々との出来事を通して、いわゆるモラトリアム期の中で人格を作り上げ、成長していく物語である。

自分が何者なのかを自問自答しながら、たくましく生きていく

話は、1987年と現代を交互に行き来しながら、87年当時の出来事と、登場人物の回想シーンとともに進んでいく。

ちなみに、法政大学という設定で、現代の回想シーンにおいては、倉持は、「キャンパスがビルのように建て直されていた」と語っており、細かい演出がなされている。

とここまでは、よくありがちな話のように聞こえるが、物語の中盤に挿し込まれたとんでもない事実によって、一気に物語は転換し、一つ一つの映像が美しく、そして儚げに感じさせる構造となっている。

吉田修一原作の作品に見られる暗転は、さすがの一言である。

実際の事件が描かれ、それが劇中に落とし込まれた仕掛けとなっているのだが、前半部分と後半部分にコントラストが観るものを魅了し、生きるとはなにか、人と人とは何かを深く考えさせる。また、実力派のキャストを隅から隅までキャスティングし、演出も非の打ちどころがない

『蛇にピアス』で共演した高良健吾と吉高由里子の掛け合いは円熟の域に達し、池松壮亮に綾野剛、柄本佑、井浦新、江口のり子が脇を固め、至る所でクスッとさせる演出が散りばめられており、それが終盤にかけてボディーブローのように効いてきて、圧倒的な感動を生んでいる。

この作品は、かれこれ3回目ほども視聴しているが、今作品における高良健吾演じる横道世之介の独特の間合い・芋臭さはどこまでもこの映画に馴染んでおり、彼以外では無理だろうと思わせるほどである。

さらに完全な私見であるが、監督の沖田修一監督は、2009年の『南極料理人』でも、高良健吾をキャスティングしており、その時の役柄が今回の横道世之介と若干重なる部分があり、高良健吾のキャスティングはそういったところも影響しているのかもしれない。

そして、1980年代を映し出す映像も、観ているこちらをその時代に誘うかのような懐かしく自然な映像美がそこにあり、2時間半にも渡る長尺をまったく感じさせない作りとなっている。

なぜもっとこの映画に脚光が浴びないのか、少し不思議なぐらいである。

横道世之介という人物には、人を惹きつける力がある。

それは、簡単に形容すると、裏表のない人柄である。相手の放った言葉をそのまま受けとって返す、そんなシーンが劇中でも多く登場する。

友人の倉持(池松壮亮)が学生の彼女との間に子供を授かり、大学を辞めるというシーンがあるが、その時に困っていることを聞かれ、「お金を貸して」と軽はずみにダメ元で口にするが、世之介は当然のように「いいよ」と笑顔で返す。

普通ならためらうようなやり取りも、世之介には固定概念がなく、まっさらな状態で判断しているのである。

そんな姿に周りの人物は魅了され、あたかも宇宙人と遭遇したかのような感覚を抱き、世之介との日々を忘れられないのである。

いやあ、本当にいいものを見させてもらった気がする。

なんか「続編」が本で出たという話を聞いたが、ぜひこのコロナという大変動期を迎えた今、ぜひ映画でも続編を期待してしまう。

世之介の真っ直ぐな生き様は、これからを生きる私たちにとって、必ずやヒントをくれるはずだろう。

余談だが、個人的には、池松壮亮演じる倉持が、引っ越しを手伝ってくれた世之介に、夕暮れの1Kのアパートで背を向けながら感謝を言うシーンが、最高であった。

大学生という人格形成の変化が頻繁な期間を描いているこの映画において、自分の感情に正直ではない倉持が、初めて怖さを正直に認識し、向かい合おうとする変化を絶妙に描いたこのシーンは、もう一つの見どころとして、ぜひ押さえておいていただきたい。

続編も同じキャストでぜひ観たい!

― hogeru -