映画感想『万引き家族』家族の繋がりに必要な切ないカタチ

2020-03-25

『万引き家族』は是枝裕和監督による日本の底辺で暮らす名も無いある家族に焦点を当てた作品でカンヌ映画祭で最高賞を受賞しているファミリーヒューマンドラマ!下町の片隅でひっそり暮らす5人家族は万引きをしながら細々と生計を立てている。そこにリンと言う虐待されている少女を連れてきて一緒に暮らしはじめるが、それは悲劇の幕開けでもあった

制作費をあまりかけていないと言われている本作ですが、
是枝監督の構想をキチンと繁栄して、出演者・内容ともに良い作品です。

日本の社会問題と言うよりも、ひっそりと暮らす家族の”形”に焦点を当て、何が正解なのか探っていくような映画です。

海外でも評価が高く、さらに文化庁からの助成金をもらって受賞したのに、「謝意祝辞は辞退」など何かと話題の作品です。

何はともあれ、作品そのものは超おすすめ作品です。

それでは、以下見ていきましょう

あらすじ ラッシュ

『万引き家族』イメージ画像
GAGAHPより  https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

下町の一角の古びた家で、ひっそりと暮らす5人家族がいた。普段は日雇いの仕事をしている父親の治は、息子の翔太と日々万引きをすることで生活を保っていた。母親の信代はクリーニング店のパート、祖母は年金生活、娘の亜紀は風俗に勤めていた。

ある時、治が年端も行かない少女リンを家に連れてきた。虐待を受けているらしき少女を信代は家に帰すことが出来なかった。それぞれがそれぞれの事情で万引きなど軽犯罪を繰り返す家族だったが少女を家に置いたことで、家族の形が変わってきたと共に何か歯車が狂いはじめた。

祖母がある朝、突然死んでいた。葬儀に出すことが出来ない家族は床下に遺体を埋めて供養した。
翔太はリンと万引きに出かけるが、リンの失敗をカバーするため自分がおとりになり逃走するが、歩道橋から落ちて足を骨折し、警察に捕まってしまう。
そこで待ち受けていたのは、家族の離散の始まりだった。

映画情報&キャスト

『万引き家族』 2018年 日本
【外国タイトル】Shoplifters
【監督】是枝裕和
【脚本】是枝裕和
【原案】是枝裕和
【出演者】
治:父ちゃん(リリー・フランキー)
信代:母ちゃん(安藤サクラ)
亜紀:信代の妹(松岡茉優)
翔太:兄(城桧吏)
りん(ゆり、じゅり):妹(佐々木みゆ)
お祖母ちゃん:ばばあ(樹木希林)

映画感想・評価

公式HPより youtube.com

是枝監督の構想10年

脚本とメガホンを取った是枝監督は、原案も軽犯罪で生計を立てていたある家族をモデルとして、本作の構想を10年間錬ったそうです。

監督によるカンヌの後の外国人特派員協会でのインタビューでは、日本の政治的な事に言及したくて本作品を作ったわけではないとのこと。

ただ国際的な映画際とかでは政治や社会情勢を意識した作品が評価される傾向にあり、本作品はそういう意味では結果的に日本の貧困問題と捉えられて刺さったのではないかと言うような発現がありました。

また、実在の家族をモデルにしたというより、
意識として実際の事件を映画のシーンとして捉えたようです。

  • 年金不正受給:愛以外の何か(お金)で繋がっていた家族
  • 釣り竿盗難事件:盗難釣り竿だけは換金されていなかった、釣りをしたかった理由があった

こうして是枝監督の想いから入ると、本映画の中のシーンを思い出し、表現したかったことが、すっと腹落ちしてきます。

日本での底辺での暮らしをよりビビッドに表現し、

合わせて読みたい家族の愛を感じる『天使がくれたじかん』

その中でも家族という偽装された繋がりの表現が素晴らしかったです。

家族それぞれの依存関係や繋がり

家族の定義を大きくユラしたのが、本映画のミソです。

映画の中でも徐々に明確になっていきますが、サスペンス仕立てで、じゃじゃじゃーんって音楽が鳴って事実が明らかになっていくタイプの映画とは違います。

もっとサラっとしています。

セリフの節々に伏線などとの思いではなく、

  • 「父ちゃんって呼べよ」
  • 「何つけあがってんだよ」
  • 「小学校に行くやつはバカだから行くんだよ」

とか何か家族で会話するときとは異質なセリフが積み重ねられていきます。

全員が血縁関係の無い、バラバラの他人なのです。

治と信子でさえ、夫婦でさえありませんでした。

そんな家族なのに、支え合い・笑いながら、犯罪は犯していますが”家族の形”を取って、お互いに依存しながら生きています。

依存していた物は、”お金”や”生活”と言ってしまえばそれまでなのですが、

家族が離散するまではお金の他にも確かな物があったように感じました。

そう、つなぎ粉のようにぽっかりと空いた気持ちを補完する物として。

  • 治と信代 : 夫婦と偽装の愛、家族
  • 祖母   : 自分達が築けなかった家族の形そのもの
  • 亜紀   : 本当の家族に感じる劣等感を埋めた親近感
  • 翔太   : 両親への依存(★)
  • リン   : 母親への愛情

ここで気にしたいのが翔太です。

翔太だけ、

本物の家族から引き剥がされて来たのです。

自分からついてきたわけではないのです。

ここが家族離散のきっかけになりラストシーンへ繋がっていくポイントだと思います。

家族離散のきっかけ 翔太の捕まった理由・真相

映画の中で語られる翔太は

  1. 家族に依存して生きている
  2. 妹リンが加わることで居場所に不安覚える
  3. 就学年齢で学校に行けないことに疑問を持つ
  4. 治のことを父親と思えない・呼べない
  5. 亜紀の水着に興奮する
  6. ”やまとや”の叔父さんからの一言が気になる。
  7. ”やまとや”の叔父さんが死んだ
  8. 悪いことの定義を考えはじめる
  9. パチンコ屋で置き引きすることに疑問を覚える
  10. 警察(店員)に捕まるような行動を取る

時系列に見ると、心の変化がわかります。決定的だったのは家族ビジネスだった万引きに対して疑問持ったことです。

その疑問は、波紋のように広がり自問自答を繰り返します。

”やまとや”の叔父さんから、

「妹にさせるなよ」と万引きを見逃してもらっていた事実の意味を何度も繰り返し考えます。

また、パチンコ屋での置き引きのシーンでも自分が家族に加わることになった理由を知りたがります。

当然ですよね、”リン”は自らの意思で本当の家族の元に戻りたくなかったし、亜紀も家族から自分で離れています。

翔太だけは、連れてこられたんです。治と信代の家族ゲームの重要なコマであった、自分が万引きされた商品と同じなのでです。その万引きを自分でもしている。

釣り竿が、それをメタファーとして使われています。

釣り竿を転売してお金に換えるのではなく、釣り竿を使ってみたかったから手元に置いたんですよ。

翔太も釣り竿と同じ存在で、翔太もそのことに気がついてしまいます。

自分だけ異質の存在で、手元に置かれた釣り竿と一緒だと。

亜紀のコンプレックスと万引き家族と居る理由・考察

映画の中では、亜紀は祖母の別れた元の夫の孫娘(祖母とは血縁関係なし)と言うことになっています。

祖母が、元夫の息子の家でお金をせびったことで、亜紀は本当はそこの家の長女であったこと、海外留学していると周辺の人には伝えられていること。

卒業証書を抱えた写真まで飾られていましたから、普通の子だったと思われます。

その亜紀が、風俗店で働くときには、本当の妹の名前で店に出ています。

皮肉なことですが、妹と確執もしくは相当のコンプレックがあるものと推測しますが、映画内ではそこまで明確には語られませんでした。

亜紀という人物の考察

風俗店で働く”4番さん”が言語障害あるいは総合失調症のような症状で、うまくしゃべることが出来ません。亜紀はそんな彼を易しく受け入れます。

どんな状態でも、しゃべらないでも、亜紀は易しく彼を包みます。

亜紀は、本当の家族の元では上手くしゃべることが出来なかったのでは無いでしょうか?

これも考察・推測になりますが、その理由としては

  • 母親が実の母親でない [セリフ 母親の「血は争えない」より]
  • 妹が可愛がられる[セリフ 家を出るときの妹のセリフが結構わがままっこ]
  • 風俗店での源氏名が妹の名前

これは、家では亜紀は父親の連れ子で、亜紀の実の母親は既にこの世に居ないのではないでしょうか?

なので亜紀は祖母(樹木希林)を実の母親のように感じていたと思います。

同じように前夫に捨てられた or 忘れ去られた存在として。

亜紀は、継母に対して声を出すことも出来なかった、妹に常に比較されコンプレックス、いえそんな生やさしいものではなく、本当の家族と思えなかったのではないかと思います。

その為、今の治と信代の家族に祖母を通じて寄り添うことで、自分の居場所を確立したのです。

4番さんの、声にならない叫びの理由や、考えていることを伝えられないというもどかしさが彼との繋がりを深めます。

また、亜紀は家族を求めていたのに警察で、信代と治の本当の関係として家族でないことを知ります。

その時の絶望の表情は、祖母が居なくなった後に自分の居場所が完全になくなったことを、松岡茉優が良い表情で抜けます。文字通り、何かが抜けるのです。

彼女にとって価値のなくなった家族という形です。

このあと明確には映画の中で表現されていませんが、亜紀は祖母と暮らしていた、みすぼらしい家に戻り一人また暮らしているのだろうと想像します。

信代と治の本当の関係

信代と治は信代の前夫を殺した罪で起訴されています。

二人は死体を隠し、逃走中の犯人だったのですね。

そして、風俗店で働いていた信代と、客の治という関係が本当の関係だったのでしょう。

描写はありませんが、治の背中を洗うフロでのシーンとセリフ「今度は私の番」のセリフから、前夫を殺したのは治であると推測します。

そして、警察に捕まろうが、何をしようが信代にとっては、前夫との関係を断ち切ってくれた治は何物にも代えがたい存在であったと言うことです。

本当の家族ではなくとも、家族以上価値のある二人の関係であります。

スイミーと家族の関係、翔太の本当の想いの秘密 ネタバレ

翔太が治に聞かせる物語の話があります、”スイミー”です。

誰もが小学校時代もしくは小さな頃に聞いたことのある物語ですよね。

アメリカの作家レオ・レオニさんによる絵本物語です。

小さな黒い魚のスイミーが、他の魚の群れの中で一緒に大きな魚を撃退(追い払い)、成長するお話です。

なぜ、翔太はスイミーの話をしたのでしょうか?

スイミーそのものの強い魚に立ち向かったというよりは、スイミーが他の魚の中で浮いていて、本当の家族に会いたいと思っていると言うことを暗に伝えたかったのだろうと思います。

治は父親になりたかった、ごっこを続けたかった。

セリフからわかるように「父ちゃんと呼べ」にこだわっています。

でも翔太はそれが出来ません。

だって本当の家族ではないから、だって翔太は連れ去られた子供で、嘘の家族だって知っているから。

他の家族は繋がりはそれぞれ理由があって自分から繋がってきたから。でも翔太は違います、翔太だけは自分から仲間になったわけではないのです。

なので、リンの時と同じなのかを何度も父ちゃんに聞きます。

また、是枝監督の外国人特派員協会でのインタビューによると、ある児童施設でスイミーの物語を読み聞かせてくれたくれた女の子がいたそうです。その女の子は本当の両親に会いたいと思ったに違いないとの想いから、スイミーを登場させたと言っています。

これらのことから、翔太のスイミーは翔太の心の声を比喩的に表現し、本当の家族の元へ帰りたいことを示しています。

監督の際立つ演出

是枝監督の演出表現として、本作は特徴があります。

疑似家族主体の本映画ですが、遠巻きに撮影しているときには家族の誰か一人の視線とか頭の中のイメージとして、撮影されているようにも見えます。この表現が家族っぽさを際立たせています。

また、翔太とリンの独特の目線を意識させるためか、カメラ視点が足下から入ったり下側に振ってある物が多い用に見えます、これは子供の視点を意識させるとともに、重厚な作りのイメージが沸きやすいです。

その他にも、釣り竿の演出であったり、最後に治と翔太の「おじさんに戻る」の表現からの「わざと捕まった」までの流れが、色々な物を収束させて疑似家族の終わりの合図になるのです。

安藤サクラの女と母親の群を抜いた表現力

安藤サクラは群を抜いて良い演技で、時折見せる母と女とのスイッチが独特の雰囲気から匂ってきます。パートのアルバイト一つ取っても、なかなか入れないモードです。

リリーフランキーはそのまんまの雰囲気で、演技と言うより地でいけてそうな感じでしたが、安藤サクラと良い意味で相乗効果で高め合っている底辺の偽装夫婦が胸にしみました。

安藤サクラの多くは母親の演技なのですが落ち着いて深みのある演技が心を揺さぶられます。

同僚に”ばらす”と言われたときの間の置き方と表情。

一瞬で、リンと家族ごっこを秤にかけて、リンを守る決断をするのです。

女の側面として、恐らく偽装家族になってからは一度も関係を持たなかった治と信代

それが、子供達が留守の時に、そういう行為をすると女の性を全開で出します。

行為が終わったあとの子供が帰ってきたときには、再度一気に母親に戻ることで、偽装でなく本物の家族らしさを演出しています。

松岡茉優の女優を引き出した作品

本作は、松岡茉優の女優としての素質というか、素養を見事に引き出した作品で合ったと思います。

どこか満足できていない、下町で生きる柴田家にある意味、万引きとは違うカタチで寄生する亜紀。

彼女のバラエティーに出るときのぶっとんだ感性が、冷めた・外での生活では素をさらけ出せない彼女が柴田家のなかだけでは、さらけだした表情。

すごいいいですね。風俗店でのちょっとした表情とか、おばあちゃんが死んだときの表情の差が凄い。

『勝手にふるえてろ』から開花しはじめた才能が一気に花開いた感じです。

今後も要チェックの女優です。

意味深いラストシーン りん・じゅりはどうなったのか

結局は自分の意に反して、本当の家族の元に戻されて、また自我を失っていきます。

 「ごめんなさいは?」

母親からの強制の言葉は、本当に涙を誘います。

その言葉に拒否する度に、虐待を受けたのでしょう。

考察の域を出ませんが、リンは翔太がそうしたように、手すりの柵を越えて身を投げてしまったのではないでしょうか?

バッドエンディングですが、そう見えてしまいます。

海外の評価 2020/03時点

一部批評家からもは、めちゃくちゃ評価されています。日本の社会問題として扱われているコメントも多いですね

imdbイメージ画像
Metascore
(批評家)
93
User rating8.3/10
ROTTENTOMATOイメージ画像
TOMATOMETTER
(批評家)
99%
Audience91%

映画の感想まとめ

アジア映画としては、快挙の部類です。 カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」 までとるなんて本当に凄い事です。

中身においても、非常に面白くエンターテインメント性がないにもかかわらず、ここまで惹きつけられる魅力は凄いと思います。

本作品は、子供とみたいですがふさわしくない表現があるのが残念。
(子供とみることが出来ないのが残念)

→家族の愛を確認したいとき
→疲れているとき、自分を探したいとき
→安藤サクラと松岡茉優のキレた演技観たいとき

こんな人ならこの映画おすすめで、好きだと思います。

独善的評価[5段階]としては
 映像・音楽      5
 キャスト       5
 ストーリー構成    5
 初見で読み取れない謎 5